ジャガイモ
<ナス科ナス属>
●主な栽培地 遠野町 山玉町
34 ジャガイモは、ナス科ナス属で地下の茎 の部分が肥大したものです。原産地はサツ マイモと同様南米アンデス山脈の高地と いわれています。16 世紀にスペイン人に よってヨーロッパへ、その後イギリス、ア メリカ、インド、東南アジアへと伝播し、 日本にはオランダ人によって 17 世紀に伝 わったとされています。「ジャガイモ」と いう呼び名もオランダ人によって日本にも たらされたようです。また、ジャガイモを
「馬ばれいしょ鈴薯」と呼ぶことがありますが、この 呼び名は、18世紀に江戸時代中期の本草 学者である小野蘭山が命名したといわれて いますが、いまだに詳細は明らかにされて いません。
日本に渡った当初は、あまり栽培されま せんでしたが、天明から天保年間の凶作年 に、救荒作物として価値が見直され、徐々 に普及していきました。やせた土壌でも栽 培しやすく、ビタミンやミネラルも豊富で、
生産の歴史的由来
遠野
山玉町
ジ ャ ガ イ モ
↑遠野で代々栽培が続けられているジャガイモ
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遠野町で栽培が続けられている在来のジャガイモは、葉や花の特徴から、お そらくは男爵系ではないかと推測されますが、芽の部分が浅く皮がむきやすい メークインの良さをも併せ持っています。
現栽培者の父親の代からあるというジャガイモは、実に 50 年以上の歴史を 持っており、それだけ長く種芋を変えずに続けているのは驚きです。ジャガイ モは病気になりやすく、同じ種芋で栽培を繰り返すのは難しいとされます。周 囲からも上手に栽培するコツを尋ねられますが、特に変わったことはしていな いと言います。
昔はホームセンターなどなかったから、出来た野菜から次の年の種を採るの が当たり前だったと語る栽培者は、ナスや白菜、大根などの種も自家採種して います。
病気を防ぎ、種を切らすことなく毎年立派な野菜を作り続けることについて、 ご本人は特別な意識は持っておられませんが、草ひとつない畝と、整理された 畑を見ると、そこに秘訣が隠されているように感じます。
茹でるだけで食べられることから、江戸時代に何度となく発生した飢ききん饉の際、 サツマイモと同様、庶民を救い「お助けイモ」とも呼ばれました。
現在のジャガイモを代表する品種、男だんしゃくいも爵薯とメークインは、大正から昭和に かけて普及しました。
この基本の二品種は、いわき市内全域で栽培が見られますが、ジャガイモは、 種芋を定期的に変えないと、芋が年々小さくなったり病気になったりするため、 なかなか同じ種芋で継続して作り続けることは困難です。
いわき市でも、代々の種芋を植え付け、栽培を続けている方は、ごくわずか です。
遠野町
栽培のコツなんてない。父の代から続く種芋。
ジ ャ ガ イ モ
一緒に栽培している「きたあかり(非在 来種)」と比較すると、おくいもの方が茎 が長く伸び、枯れるのが遅く、また収穫後 も芋から芽が出るのが遅いという理由から 重宝がられ、長きにわたって食べられてき ました。
自家採種にこだわってきた理由を尋ねる と、「手がかかんないし、病気にも強い。 何より子供の時代から食ってきた芋だから 絶やせねえんだ。でも山(開墾地)で食っ てた頃の方が美味かったような気がすん な」とのことです。
食べ方は味噌汁・煮物・茹でて塩で食べ るなど、一般的ジャガイモと違いありませ んが、煮崩れしないことが特徴です。
また、他の芋と比べるとでんぷん質が多 く、芋を茹でると汁が白濁し、少しとろみ が出ます。このことから、かつては自宅で 片栗粉も採っていたそうです。
います。種芋が丸ごと用いられるので、あ ちらこちらから複数の芽が一斉に発芽しま す。太めの良い芽を2~3本ずつ、約 40
㎝間隔で残し、あとは取り除いてしまいま す。
5月下旬になると葉が生い茂り一斉に薄 紫色の花が開花します。土の中のじゃがい もが肥大する適温は15度~20度前後で す。高温になると肥大が止まってしまうの で、7月から掘りおこし、8月の盆前には 全て収穫を済ませます。
36 ジャガイモの栽培には冷涼な気候が適し ていますが、東北地方では多照・少雨の年 に豊作になるといわれています。
栽培者はジャガイモのことを「おくい も」と呼んでいます。呼称の謂いわれは分かり ませんが、この種芋は祖父の代から三代に わたって継承されたものです。
現栽培者の祖父は、開墾地において自ら 切り拓いた畑で野菜を栽培していました。 幼い頃、祖父の作ったおくいもを食べた記 憶も残っており、その後、住まいと畑は移 転されましたが、父もまたこの種芋を絶や すことなく現在にいたっています。
山玉町
開墾地で祖父が実らせたおくいも
3月の植え付けの際には、種芋を切らず に丸ごと土に埋め込みます。大き目の芋な らせいぜい2つに切るくらい、種芋が小さ すぎても大きすぎても良い芋は育ちませ ん。日に当たって表面が緑化した6~7㎝ ほどの小ぶりのじゃがいもを用いるのが一 番良いそうです。欲張らず、株間は広目に とり、肥料は通常用いられるものより少し 高価な野菜配合肥料を使用しています。収 穫まで草引きを怠らず、土寄せは2度行
栽培方法
ジ ャ ガ イ モ
でんぷん質が多いという 山玉町のおくいも
37 最初に1m×8m程の畝づくりをしま す。3月末に鶏ふん・配合肥料を散布して 耕起した畝2列に、30㎝間隔で種芋を定 植します。小ぶりの芋はそのまま、大きめ の芋なら縦長に切って植え、その後、畝全 体を黒マルチで覆い、霜害や雑草に備えま す。
4月上旬に芽が出てきたら、芽の周囲だ けマルチに穴を開けます。通常、他の作物 は追肥・土寄せ等行いますが、おくいもは 何もしないそうです。特別な害虫対策はし ませんが、てんとう虫が葉を食い荒らすと きは駆除します。
6月下旬~7月下旬になると葉が黄色く 枯れてくれば、収穫の目安ですので、マル チを外します。茎葉も連なって外れますの で、茎の周囲の土をおこして芋を収穫しま す。収穫したおくいもは、陰干したあと風 通しの良い暗所でカゴに入れて貯蔵しま す。
栽培者は、倉庫内で、おくいもだけは他 の作物と分けてスペースを設け貯蔵してい ます。
あまり手をかけずに、比較的短期間で収 穫を迎える丈夫な「おくいも」は、倉庫内 でまだかまだかと春の出番を待っていま す。
栽培方法